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2016/03/07

幸せの青い紙・かさね篇 参

「やー。ええ天気やねぇ」
「それ、さっきも言いました」

ギィ、ギィと鳴る、木製の椅子に腰掛けた2人は、ぼんやりと販売されてる野菜や田んぼを眺めつつ『おしゃべり』とやらに興じていた。

「はー………………」
「……………………」

多分。恐らく、だが。

「……………………」
「……………………あの。今日は、ナスとキュウリを眺めに来たんですか?」
「…………んぁ? え、なんかゆーた?」
「寝てましたね……」
「あははー。ここ、けっこー涼しいやん? ねむぅなってもうてなー」

2人の座る場所は木の屋根にまもられており、確かにこの季節にゆっくりするには良いのかもしれない。

「何か用があったんじゃないんですか? 無いなら、わたし帰りますよ」
「あ、ちゃうちゃう。ちゃんとあんねん。ええと……」

ゴソゴソ、と懐を漁るとうか。

「お、あったあった。ほれ、かさちー宛の手紙や」
「わたし宛? ……って、これ!」
「微妙に汗ついてもーたな?」
「そこ、あんまり重要じゃないですよ!?」

確かに、青く染められた和紙は、ところどころが濃く変色していた。

「かさちーは知ってはる? 汗ってな、おしっことあんまり変わらんモンでできてるらしいで」
「えっ……え、ええぇっ!?」
「うわー。かさちー、えんがちょやー」
「………………そういうこと言うと、また泣きますよ?」
「うっ」

微妙に涙目になったかさねを前に、先ほどのおかしな大捕物になった発端を思い出す。

「じょ、じょーだんやって。ぜんぜん汚くなんて、あらへんから。なっ? なっ?」
「ほんとですか?」
「ほんまほんまっ」

女の涙は武器と言うが、この場でとうかが感じている恐怖と焦りは、おそらくそれとは別種で、だけども同格と言えるほどのモノだった。

「ほらほら、それより手紙や手紙っ」
「そうですね……んと」

カサ、と開いて読もうとすると。

「じぃ~~」

と口に出しつつ、ほっぺたを重ねるような勢いでかさねに近づき、その手元をのぞき込むとうか。

「あ、あの、とうかちゃん……そんなに近づかれると、読みづらいんですが」
「や、や~。あははは……ごめん。うち、実物見るんは初めてやから。あっち向いておくな?」
「あ……」

本来、プライベートに関わることなので、青い手紙は独りで読むものだ。
けれど、知識はあるが経験のない2人には、そう言う常識も実感が薄い。
だからかさねも、別に構わないと思っていたのだが、先に察したとうかが気を利かせてそっぽを向いてしまった。
これ以上、何か言うのも逆に気を遣わせてしまうと考えたかさねは、静かに手紙の封を切る。

「んと……」
「……………………」

とうかの背中から微かに聞こえる、紙のカサカサ、と言う音。
いつもは気にもならないはずの音色に、けれどなぜか耳をそばだててしまう。

「……………………」
「………………ど、どや?」

沈黙に耐えきれなくなったとうかが、うっかり飛び出た曖昧な質問をかさねに投げかける。

「ん~…………どう、なんでしょう?」
「逆に聞かれても、うちにはわからへんなぁ」
「あはは、ですよね」

そしてまた少し黙っていると、ひときわ大きいカサカサが鳴り、今度はかさねが沈黙を破る。

「はい、もう大丈夫ですよ。読み終わりました」
「ほんま? 引っ掛けやったりせーへん?」
「なんでわたしが、とうかちゃんを引っ掛けるんですか……そもそも、さっきまでは読もうとしてたでしょう?」
「あ~……あれは、なんや? その……デキゴコロ?」
「出来心で、あんなに接近するんですか、とうかちゃんは」
「ちゅーしそうになってもーたもんな」
「ちゅ……って、も、もぉっ。変なこと言うの、禁止ですっ」

そんな軽口を叩いているうちに、とうかも平常心が戻ってきたのだろう。ゆっくりと、かさねの方へと向き直る。

「えと……それ」
「はい。読みますか?」
「ええの?」
「とうかちゃんが、読みたいって言うのであれば」
「ぐぬぬ……」

嫌がるようであれば、まだ強引に見せてもらおうとしたりもできるものを。
こう、逆に歓迎されてしまうと、どうにも言い出しづらい。

「でも―――」

そして、かさねは言葉を続ける。
心から感じた、本当の気持ちを。

「できればこれは、その時までの楽しみにしておいた方が良いかな、って思います」
「……そうなんや?」
「はい。少なくともわたしは、そう思いました」
「そか」

いったい、そこには何が書いてあったのだろう?
それは、紙をもらったことのある紡ぎ手……いや。もしかしたら、かさねにしかわからないことなのかもしれない。
けれど。

「かさちーがそーいうんなら、うちも待っておくわー」
「はい、それがオススメですっ」

親友が言うんだ。なら、信じてみよう。
……そう、とうかは考えていた。

「えへへ、けどいきなり過ぎてびっくりですね」
「ほんまやね。時間とか場所の指定が書いてあるんやったっけ?」

いつか、みつなや他の先輩達に教えてもらった、心構えと基礎知識。
その事をぼんやりと思い出しながら、かさねに聞いてみる。

「はい。明日の夜……わたしの部屋の、みっつ隣だそうです」
「明日!? えらい急やなぁ」
「ほんとですね。緊張する暇もないくらい」
「けど、1週間後とか言われたら、うち忘れてまいそうやわ」
「くすっ。とうかちゃんなら、本当に忘れちゃいそう」
「うちは、期待を裏切らんびしょーじょやからなぁ」
「自分で美少女って言うのは、どうかと思いますけどね?」

コロコロと笑い、笑顔を振りまくかさね。
そんな様子を見ながら、とうかは考えていた。いったい今、どういう心境なのだろう? と。

「あの、用事ってこれで終わりですか?」
「うん、これだけやで」
「じゃあせっかくですし、ちょっと遊んでいきましょうよっ」
「え、ほんま? 珍しいやん」
「なんだか今、むしょーにとうかちゃんと遊びたいんです」
「おう、えーでー。うちはいつでも付きおーたる」
「ふふ、心強いですね。じゃあ、何しましょうか?」
「そやなぁ……」
「うーん……」
「………………よし、寝よか」
「遊びじゃないですよっ!?」

けれど、多分それは聞いた所で理解できないのだろう。
そう考えたとうかは、とりあえず考えるのをやめて。

「はい、はじめー。………………すぅ」
「えぇっ!? ほ、ほんとに寝た!?」

自分にもそんな幸せの青い鳥が来るのを、寝て待つことにした。

「すー…………すー…………あれ? 待つのはカホーやったっけ……?」
「寝言!?」

だから、まずは。
おやすみなさい。
(了)
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