2016/09/22

あさちゅん

「かさねちゃん、ここはもう良いから、とかちゃんを起こしてきてくれる?」
「あ、そうですね。わかりましたっ」

朝食の用意が調ったところで、みつながとうかの起床を依頼する。
とは言え、既にいつものことなので、かさねからも特に文句が出ることなく、居間からパタパタと出て行く。

***

「すー……すぅー……」
「とうかちゃん、朝ですよー」

スッと襖を開け、毎朝の恒例行事をしに来たかさねなのだが。

「ほら、もう朝ご飯もできてますから。起きてください」
「んん…………すぅー……」

こちらも恒例通り、まるで起きる気配がない。

「もぉ……相変わらず、気持ちよさそうに寝てるんだから」

とうかの側にしゃがみ込み、身体を揺するかさね。

「とーかちゃん、起きて。起きてくださいっ」
「ん~……やぁー……」
「起きないなら、朝ご飯抜きになっちゃいますよー?」
「あぅ……あかん~」

起きたのか寝言なのかわからないが、朝食がなくなるのはダメらしい。

「ふぅ……今日はどうしようかな」

毎日、手を変え品を変え、最終的には力尽くでとうかを起こしているかさねだが、今日の作戦はまだ立てていないらしい。
グズるとうかの枕元で、考え込んでいると。

「あふっ……ん、いけないいけない」

うっかりと、小さなあくびを漏らしてしまう。
どうやら昨晩、みつなに借りた本で夜更かしをした影響がジワジワと出始めているようだ。
目を覚まそうと、自分の両頬を叩くために腕を上げようとすると。

「……ん?」

クンッ、と右腕に不自然な重みを感じた。
ふと下を見ると、いつの間にかとうかが袖を掴んでいたようだ。

「もう、とうかちゃんてば……」

ため息を吐きつつ、ふりほどこうとして左手をとうかの腕に伸ばすと。

「ううぅ……」
「え? ちょ……え、えっ?」

不意にとうかが、グイッと手前に引っ張り出した。

「だ、だめですよ、お着物が傷んじゃいますっ」
「ん~、やぁー……!」
「わ……わ、わわわっ!」

想像を超える強い力で引っ張られたかさねは、体勢を崩してしまい、ボスン! と、とうかの寝る布団に倒れ込む。

「な……なにを?」
「うぅ…………すぅ、すぅ……」

やはり寝ぼけていただけなのか、とうかはまたすぐに寝息を立て始めてしまう。
しかし、とうかの手はガッチリとかさねの袖を掴んだままだ。

「……とうかちゃん、離してください。このままだとわたしが動けません」
「すぅ……すぅ……」
「はぁ……んもぉ。どうしよう、これ」

布団に寝っ転がされたまま、目の前で気持ちよさそうに寝息を立てるとうかを眺める。
しかし、かさねと同じく夜更かしでもしたのだろうか。
いつも以上に起きないとうかを見ている内、猛烈な眠気がかさねを襲い始める。

「んっ…………」

そして、まるで催眠術にでも掛かったかのように、かさねの目がスゥッと閉じてしまうのだった。

「…………えへへ、かさちーまくらぁー」

どんな夢を見ているのだろう。
更に、とうかが掛け布団の上で意識を失いかけているかさねを抱き寄せる。

「んん……とーか、ちゃ……」

数分の後、小さな寝息を立てる2人の姿がソコにはあった。

***

「今日は、珍しく手間取ってるみたいねぇ」

あとは食べるだけとなった朝食をそのままに、みつなは廊下を歩きながらフゥ、と息を吐く。

「朝のとかちゃん対策、何か考えるべきかしら?」

頭を悩ませながら歩いていると、とうかの部屋の襖が開きっぱなしになっていることに気付く。
それを見て、やはり手間取っているのだなと得心したみつなは、なんの遠慮もなく部屋へと足を踏み入れる。

「かさねちゃん、とかちゃんはまだ―――」

と、声を掛けた瞬間。

「…………え?」

密着するようにして抱き合う、2人の姿が目に飛び込んできた。

「えと……え、え? こ、これって……えっ?」

混乱しつつも、迅速に、そして音も立てずに部屋を出るみつな。

「ま、まさか、2人って……」

歩いて来た廊下を早足で戻りつつ、みつなは何やら変な方向へ考えが回っていく。

「……道理で、普段から仲が良いと思ったわ」

どうやら、かさね達が思いもよらない所へ着地したらしい。

***

「すぅ……ん…………んぇっ?」

パチ、と目を覚ますと、すぐ目の前にはとうかの顔が。

「あれ、ここ…………あっ! そ、そうだ、わたし、とうかちゃんを起こしにきて……いっけないっ! とうかちゃん、起きてください! ほら、早く! はーやーくっ!」
「ふひひ……なんやの、それぇ……そないなキノコ、あらへんて」
「寝ぼけてる場合じゃないですよっ! もぉ……ほら、起きてっ!」

結局、今日も力尽くになったようだ。

***

―――そして、みつながとうかの部屋を訪れてから、20分後。

「みつねぇ、おふぁよぉ~」
「す、すいません、遅くなっちゃって……」

寝癖も寝起きも全開のとうかに続き、バツが悪そうに居間へと入ってくるかさね。

「あ、あら2人ともっ。もういい……の?」
「……? は、はい。もう大丈夫です」
「うちはもうちょい、あのままが良かったんやけどなぁ……」
「あ、あのままっ……!?」
「もぉ、とうかちゃんは……いくら寝ぼけてたからって、あんなに力一杯されたらビックリしちゃいますよ」
「ちちち、ちからいっぱい……!!?」
「しゃーないやんかぁ。離したらあかんーって、思ってもーたんやもん」
「どうしてそうなるんですか……まぁ、その後、目を閉じちゃったわたしも悪いですけど」
「離したら……? め、目を、閉じ……!!?」
「? どうしたんですか、みつなさん?」
「あっ……な、ななな、なんでもない、なんでもないわよっ!?」
「みつねぇ、早く食べよー?」
「た、食べ!? お姉ちゃんまで、とかちゃんの毒牙に!!?」
「……うん? 朝ご飯、食べへんの?」
「あ、そ、そうね! ご飯、朝ご飯のことよね!?」
「えと……とうかちゃんを起こしに行っている間、何かあったんですか?」
「な、なんでもない、なんでもないわ! お姉ちゃんは、いつまでも2人を応援してるわよ!?」
「は、はぁ。ありがとうございます?」
「みつねぇ、なんの話をしてるん……?」

2人の頭の中にはいっぱいのハテナが飛び交い、そしてみつなの頭の中には一面の百合の花が咲き乱れながら、三者三様の朝食を済ませるのだった。
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