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2016/03/30

もてなせ、とうかちゃん! 後編

「ふーんふふーんふふー♪」

のどかな田舎道を、荷物片手に上機嫌で歩くかさね。

「えへへ。今日は、いいお茶が買えたなぁ。後で飲むのが楽しみっ」

愛おしそうに、荷物を抱える。
その腕の中には、普段はなかなか手の出ない、高めのお茶っ葉があった。
どうやら安売りされていたらしく、迷った末に買って来たらしい。

「みんなにも飲んでもらって、感想聞こっと」

宿……いや、主にとうかが大変なことになっているとも知らず、かさねは軽い足取りで歩みを続けるのだった。

***

「……あかん。ぜんぜんない」

色々とひっくり返し、探し回った結果。緑色したお茶の葉は、一杯分さえも出てこなかった。

「のっぴきならんって、こういうことやな……」

かさねが切らしそうだったソレを買いに行っているのだから、のっぴきならないのも当然である。

「とかちゃん? お茶はまだ……って、え? ど、どうしたのこれ!?」
「うぅ……み、みつねぇ……!」

様子を見に来たみつなを見て、とうかは気が緩んで涙目になる。

「えっ!? ちょ、と、とかちゃん、泣いて……? 何があったの!?」
「へぐっ……あ、あんな。あんなぁ……?」

嗚咽が漏れそうになるのをこらえ、みつなに説明することにする。

「ううぅ……」

急須と湯飲みを指差すとうか。

「うん、お茶を淹れようとしたのよね? それが?」
「あうぅ……」

お茶っ葉をいれ、お湯を注ぐ動作をする。

「はい、湯のみにお茶が入りました。それで完成じゃないの?」
「うぅ……んぐっ」
「ふんふん、なるほど……吐くほど渋かった?」

涙目のままコクコク、とうなずくとうか。

「それで……お茶っ葉を捨てて? 淹れ直そうとしたら?」
「うぐぅ」
「……何も入ってないわね」

空っぽの缶の底を、みつなに見せる。

「はううぅ……う、うち、どないしよぉ。お茶淹れ失格の罪で、切腹か?」
「落ち着いて、とかちゃん。罪の割には罰が重すぎるわ。それにウメさんは、血液を好んで飲まないわよ」
「せやけど、せやけどぉ……!」
「ふぅ……そうよね。このままじゃ、お客様に申し訳ないわ。切腹はしないで良いけど、わたくしと一緒に腹をくくりましょう」

そう言うみつなの顔には、覚悟の色が浮かんでいた。

***

「ただいま戻りまし……って、あれ? お客さま?」

宿に戻ったかさねが玄関で目にしたのは、どこか見覚えのある使い古した履き物だった。

「ウメさんかな……? あ、ちょーどよかったっ。ウメさんにもお茶の感想を頂いてみよっと」

いい実験台を見つけたかさねは、まずは挨拶をしようと居間へ向かう。
すると、開いた襖からよく知るお婆さんが見えた。

「あ、やっぱり……いらっしゃいませ、ウメさ―――」

と、挨拶をしようとした瞬間。

「……白湯(さゆ)ですが」
「ごめんなさいぃ……」

なぜか、ウメさんに土下座しながら、お湯を差し出す2人の姿があった。
(了)
2016/03/28

とうか、頒布開始のお知らせ

こんにちわ、ネモン℃の芳松です。
DMMさんでは昨日より、そしてDLsiteさんでは本日より、ネモン℃第2弾作品『たまゆらの宿 とうか』が頒布開始となりました。

DLsiteさんの頒布ページはこちら

DMMさんの頒布ページはこちら

よろしければ、チェックしてみてくださいませ。

今作でも、また当ブログのメールフォーム等にてご意見・ご感想を頂けましたら幸いです。
それでは今後とも、ネモン℃および、たまゆらの宿シリーズをよろしくお願いいたします。
2016/03/25

第2弾作品『とうか』のご紹介

皆様、こんにちわ。ネモン℃の芳松です。
先日ご紹介した2作目『たまゆらの宿 とうか』が完成いたしました。

配信サイトですが、前作と同じくDLsiteさんとDMMさんで頒布する予定です。
既に作品審査をお願いしておりますので、頒布開始まで今しばらくお待ちください。
(※前回と同じく、配信開始となりましたらこちらの記事にもリンクを貼り付けます)

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※03/28追記
頒布開始されました。
DLsiteさんの頒布ページはこちら
DMMさんの頒布ページはこちら
となっております。
よろしければ、チェックしてみてくださいませ。
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touka01

こちらが本作の扉イラスト、およびとうかの容姿になります。
手に持っているのは、かさねとは違う、梵天のないべっ甲製の耳かきです。
前作の少し後……と言う想定ですので、今回もかなり時期はずれになりました。




試聴はこちらになります。
ハイレゾ版の試聴については、体験版にwavデータを入れてありますので、そちらでご確認ください。


さて、ご協力頂いたスタッフ様のご紹介です。

まずはイラストですが、今回も吉宗さんに描いて頂きました。
とうかのデザインについては何度もやり取りをさせて頂き、修正をお願いしたりもしたのですが、お忙しい中その全てに応えて頂いただけではなく、よりイメージに合う方向へ仕上げてもらえました。
SNSでは美麗なイラストからアゴ絵まで、幅広く投稿されたりもしていますので、興味を持たれた方は是非TwitterPixiv等もご確認ください。


とうかの声を当ててくださったのは、花蓮(かれん)さんです。
なんとありがたいことに、今回が同人作品デビューとのことです。
京都出身という経歴を活かし、ネイティブな関西弁をゆったり可愛く喋って頂きました。
ちなみに、セリフの修正も手がけて頂いております。
その際、地域ごとの違いまで懇切丁寧にご説明してもらえましたので、私自身も関西弁への理解を深められました。
そして何と言っても、圧巻の耳舐めパート。
普段の喋りとのギャップに、ゾクゾクできること間違いなしではないでしょうか。

なお、花蓮さんに関しては、HPやSNS等はされておりませんので、ご了承くださいませ。


今後の予定ですが、第3弾を近日中に公開しようと思います。
当ブログをご覧の皆様は予想がついていらっしゃるかもしれませんが、あのお姉さんが登場予定です。
ご期待ください。

たまゆらの宿の4作目と5作目に関しては、既に企画はできているのですが、少し間が開きそうです。
今年後半に発表ができれば……と思いますが、メドが立ち次第こちらでまたお知らせさせてください。
以降に関しては、企画内容を含めて現状未定です。


ブログ投稿用の短編小説については、今後も執筆していきますので、そちらもよろしければご覧いただけますと幸いです。
2016/03/24

2作目について

皆様、こんにちわ。ネモン℃の芳松です。

まずは1作目の『たまゆらの宿 かさね』について、予想を遥かに超える沢山の反響を頂き、誠にありがとうございました。
頂戴した感想は、どれもとても参考になると共に、製作の励みになっております。
特に、作品に関する具体的なご意見・ご要望については、作品内容や製作状況を鑑みつつ検討していければと考えております。


さて、制作中の2作目についてですが、来週頃には公開できそうな運びです。
何かトラブルが起きない限りはお見せできると思いますので、その際はよろしくお願いいたします。

今回のタイトルですが、『たまゆらの宿 とうか』となりました。
京都風の関西弁が特徴の、かさねと仲の良い女の子“とうか”が登場いたします。
こちらに投稿させて頂いているお話では、既にかなりの活躍を見せておりますので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

今回の主立った特徴としてですが、「場面転換」がございます。
物語はまず昼間の縁側から始まり、続いてお風呂、そして脱衣所と場面が切り替わっていきます。
どちらの場所でも特有の音の存在や声の響き方がありますので、そう言った違いも楽しんで頂けるような作りにいたしました。

また、今作は実験を兼ねたオマケデータとして、ハイレゾ音源を同梱しようと思います。
フォーマットは88.2khz/24bitです。
恐らく96khzがメジャーなビットレートだとは考えたのですが、最終的な一般機器向け形式である44.1khz/16bitを念頭に置いて検討した結果、今回の仕様に落ち着きました。

ちなみにですが、平行して制作中の3作目にハイレゾ音源は入りません。
と言うのも、実は かさね→3作目→とうか と言う収録順だったのですが、最後になってハイレゾ設定で録音することに思い至ったためです。
ですので、もしも強い需要・要望があるようでしたら、4作目以降にてまた同梱できるように収録していこうと思います。
申し訳ございませんが、ご了承のほどよろしくお願いいたします。

試聴データ等、準備が調いましたらまたこちらで宣伝しようかと思いますので、ご注目頂けると幸いです。
それでは、今しばらくお待ちくださいませ。
2016/03/23

もてなせ、とうかちゃん! 前編

「とかちゃん、とかちゃんっ」
「ん? どないしたんや、みつねぇ?」

かさねに借りた寓話集をぼんやり読んでいると、部屋を訪ねる声があった。
いつも余裕を崩さない彼女にしては珍しく、少し切迫した様子だ。

「あのね、いまウメさんがいらっしゃったのだけど……」
「あ、ほんま? 挨拶せな」

ウメさんとは、比較的近場に住む老婆で、みつなの茶飲み友達兼、宿の相談役みたいな人物だ。
穏やかで優しい、みんなのおばあちゃん的な存在のため、とうかやかさねもよく懐いている。

「挨拶の前にね、その……いま、かさねちゃんが出かけてるみたいで」
「せやねー。なんや、買い物に行くーゆーてたな」
「あぁ、そうだったのね? で、悪いんだけれど……とかちゃん、ウメさんにお茶を淹れてくれないかしら」
「お茶? うちが?」
「そう、とかちゃんが」
「あ~……いや、まぁ。別にええんやけど―――」
「ほんと? ありがとうっ。じゃ、お姉ちゃんはウメさんと居間にいるから。頼んだわねっ」
「あっ」

それだけ伝えると、みつなはパタパタと忙しない様子で出て行ってしまう。

「ええんやけど。……うち、お茶なんて淹れたことないで?」

もう見えなくなったみつなの背中に向けて、ぽつりと不穏な呟きをするとうかだった。

***

「えと……急須はこれ使えばえーよな。んで、お茶っ葉は……」

どうやら今日のウメさんは真面目なお話で来たらしく、非常に居間へ入りづらい状況になっていた。
みつなに続きの言葉を伝えて淹れ方を教えてもらおうとしたのだが、雰囲気がそれを躊躇わせてしまった。

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。うち、やればできる子やもん。お茶くらい、ぱぱーっと片付けたるで」

まるで自分を催眠に掛けるように、わざわざ独り言を口にするとうか。

「ん~と……おぉ、あったあった。これや」

戸棚の一番手前、筒状の缶に入ったお茶っ葉を見つける。
蓋を開けて確認すると、たしかに探していたソレだった。

「よし、これで準備万端や。んで、最初はなんやったっけ? ん~~~……」

目をつぶり、考察に入るとうか。
脳裏には、何度か目にした事のある、かさねの淹れる姿が過ぎっていた。

「……おぉ、せやせや。まずはお湯を湯のみに入れて、と」

お茶の前に、湯のみに湯を注ぎ、冷えた器を温め始める。
恐らくこの場所にかさねがいれば、そんな技術を披露するとうかに、素直に驚いてくれたことだろう。

「よっしゃ、次や次」

だが、それは間違いと言う物だ。
そう……とうかは今、料理初心者がうろ覚えで作る時にありがちな『やたらと細かい事だけ知っている』と言う罠に陥っていた。
その証拠に、急須は冷たいまま放置されている。
そしてもちろん、罠はそんな些細なことだけには留まらない。

「んで、お茶っ葉の投入やな」

先ほど見つけた缶を手に持ち、急須へ向かってそれを傾ける。
そして、自信満々に―――

「とりゃー」

およそ“10杯分”程度は淹れられそうな量の葉を入れ、お湯を注ぐ。
そう、『やたらと細かい事だけ知っている』と言うのは、裏を返せば『肝心なことは全く知らない』と言う意味にもなるのだ。

「ふぅ……で、このままちょっと待ってから注げば完成やったよな? なんや、めっちゃ簡単やん。ビビって損したわぁ」

そして、たっぷり1分待ってから、しっかりと温まった湯のみに急須を傾ける。

「お、出た出た。やー、こりゃえーなぁ。バッチリ緑色やんか」

初めて自分でやった、と言うのが目を曇らせているのだろう。
トプトプと注がれていく、その目に優しい色の液体を、とうかは楽しそうに見つめていた。

「よっしゃ、でーきたっ。……って、あれ? お茶って、こないに健康に良さそうな色やったっけ?」

淹れ終わり、少しだけ冷静に戻れたのだろう。
青汁ならぬ緑汁を前に、とうかは首をかしげる。

「……いちお、味見してみよか」

そして、少しだけ口を付けたとうかは。

「んごっ!?」

決して熱さなどではなく。
その強烈過ぎる渋みに、大きく顔を歪めるのだった。

「あ、あかん……あかんでコレ。苦すぎて、味がよーわからんわ……完全に大人の味やでっ!」

苦味=大人という方程式が成り立っているとうかにとって、『大人の味』と言う表現は最大級の苦さをあらわしている。

「ハッ? 飲むのんは大人なんやし、これで大丈夫やったり!? …………は、せーへんよな」

とうかと言えども、さすがにそこは理性が働いたようだ。

「なんでこないなことになったんやろ……もしかしてこの葉っぱ、ひごーほーななんかなんやない?」

しかし、自分の間違いにはなかなか気づけずにいる。この辺りも、初心者の陥りやすい罠の1つなのだろう。

「あ……この葉っぱ、アレや。めっちゃいっぱい出るヤツかもしれへん。3倍濃縮……? みたいなん、聞き覚えあるもんな。と言うことは……あっ! 葉っぱを減らせば、普通になる!?」

間違いを葉に求めているあたり、手放しで褒められるわけではないものの、どうにか正解へと至るとうか。

「そないな理由なら、うちが失敗するんもしゃーないやんな。おっしゃ、淹れなおそっと」

そして、お茶の量を半分ほどに減らしたところで、ふと気づく。
そう。気づかなくても良かった、例の初心者の罠に。

「……あっ、あかんわ。同じお茶っ葉で2回淹れるんは、無礼やーって聞いたことあるで」

そう呟きながら、残りの半分も全て捨ててしまう。

「よっしゃ。改めて、お茶っ葉お茶っ葉…………って、なんやこれ!?」

葉の入っていた缶を再び取り出したとうかは、その中身を見て驚愕する。

「なんも入ってへんやん!?」

……そう。先ほどの10倍濃縮にしたお茶で、中身を全て使ってしまったのだ。
そしてそれこそが、この場にかさねがいない理由でもあった。
2016/03/07

幸せの青い紙・かさね篇 参

「やー。ええ天気やねぇ」
「それ、さっきも言いました」

ギィ、ギィと鳴る、木製の椅子に腰掛けた2人は、ぼんやりと販売されてる野菜や田んぼを眺めつつ『おしゃべり』とやらに興じていた。

「はー………………」
「……………………」

多分。恐らく、だが。

「……………………」
「……………………あの。今日は、ナスとキュウリを眺めに来たんですか?」
「…………んぁ? え、なんかゆーた?」
「寝てましたね……」
「あははー。ここ、けっこー涼しいやん? ねむぅなってもうてなー」

2人の座る場所は木の屋根にまもられており、確かにこの季節にゆっくりするには良いのかもしれない。

「何か用があったんじゃないんですか? 無いなら、わたし帰りますよ」
「あ、ちゃうちゃう。ちゃんとあんねん。ええと……」

ゴソゴソ、と懐を漁るとうか。

「お、あったあった。ほれ、かさちー宛の手紙や」
「わたし宛? ……って、これ!」
「微妙に汗ついてもーたな?」
「そこ、あんまり重要じゃないですよ!?」

確かに、青く染められた和紙は、ところどころが濃く変色していた。

「かさちーは知ってはる? 汗ってな、おしっことあんまり変わらんモンでできてるらしいで」
「えっ……え、ええぇっ!?」
「うわー。かさちー、えんがちょやー」
「………………そういうこと言うと、また泣きますよ?」
「うっ」

微妙に涙目になったかさねを前に、先ほどのおかしな大捕物になった発端を思い出す。

「じょ、じょーだんやって。ぜんぜん汚くなんて、あらへんから。なっ? なっ?」
「ほんとですか?」
「ほんまほんまっ」

女の涙は武器と言うが、この場でとうかが感じている恐怖と焦りは、おそらくそれとは別種で、だけども同格と言えるほどのモノだった。

「ほらほら、それより手紙や手紙っ」
「そうですね……んと」

カサ、と開いて読もうとすると。

「じぃ~~」

と口に出しつつ、ほっぺたを重ねるような勢いでかさねに近づき、その手元をのぞき込むとうか。

「あ、あの、とうかちゃん……そんなに近づかれると、読みづらいんですが」
「や、や~。あははは……ごめん。うち、実物見るんは初めてやから。あっち向いておくな?」
「あ……」

本来、プライベートに関わることなので、青い手紙は独りで読むものだ。
けれど、知識はあるが経験のない2人には、そう言う常識も実感が薄い。
だからかさねも、別に構わないと思っていたのだが、先に察したとうかが気を利かせてそっぽを向いてしまった。
これ以上、何か言うのも逆に気を遣わせてしまうと考えたかさねは、静かに手紙の封を切る。

「んと……」
「……………………」

とうかの背中から微かに聞こえる、紙のカサカサ、と言う音。
いつもは気にもならないはずの音色に、けれどなぜか耳をそばだててしまう。

「……………………」
「………………ど、どや?」

沈黙に耐えきれなくなったとうかが、うっかり飛び出た曖昧な質問をかさねに投げかける。

「ん~…………どう、なんでしょう?」
「逆に聞かれても、うちにはわからへんなぁ」
「あはは、ですよね」

そしてまた少し黙っていると、ひときわ大きいカサカサが鳴り、今度はかさねが沈黙を破る。

「はい、もう大丈夫ですよ。読み終わりました」
「ほんま? 引っ掛けやったりせーへん?」
「なんでわたしが、とうかちゃんを引っ掛けるんですか……そもそも、さっきまでは読もうとしてたでしょう?」
「あ~……あれは、なんや? その……デキゴコロ?」
「出来心で、あんなに接近するんですか、とうかちゃんは」
「ちゅーしそうになってもーたもんな」
「ちゅ……って、も、もぉっ。変なこと言うの、禁止ですっ」

そんな軽口を叩いているうちに、とうかも平常心が戻ってきたのだろう。ゆっくりと、かさねの方へと向き直る。

「えと……それ」
「はい。読みますか?」
「ええの?」
「とうかちゃんが、読みたいって言うのであれば」
「ぐぬぬ……」

嫌がるようであれば、まだ強引に見せてもらおうとしたりもできるものを。
こう、逆に歓迎されてしまうと、どうにも言い出しづらい。

「でも―――」

そして、かさねは言葉を続ける。
心から感じた、本当の気持ちを。

「できればこれは、その時までの楽しみにしておいた方が良いかな、って思います」
「……そうなんや?」
「はい。少なくともわたしは、そう思いました」
「そか」

いったい、そこには何が書いてあったのだろう?
それは、紙をもらったことのある紡ぎ手……いや。もしかしたら、かさねにしかわからないことなのかもしれない。
けれど。

「かさちーがそーいうんなら、うちも待っておくわー」
「はい、それがオススメですっ」

親友が言うんだ。なら、信じてみよう。
……そう、とうかは考えていた。

「えへへ、けどいきなり過ぎてびっくりですね」
「ほんまやね。時間とか場所の指定が書いてあるんやったっけ?」

いつか、みつなや他の先輩達に教えてもらった、心構えと基礎知識。
その事をぼんやりと思い出しながら、かさねに聞いてみる。

「はい。明日の夜……わたしの部屋の、みっつ隣だそうです」
「明日!? えらい急やなぁ」
「ほんとですね。緊張する暇もないくらい」
「けど、1週間後とか言われたら、うち忘れてまいそうやわ」
「くすっ。とうかちゃんなら、本当に忘れちゃいそう」
「うちは、期待を裏切らんびしょーじょやからなぁ」
「自分で美少女って言うのは、どうかと思いますけどね?」

コロコロと笑い、笑顔を振りまくかさね。
そんな様子を見ながら、とうかは考えていた。いったい今、どういう心境なのだろう? と。

「あの、用事ってこれで終わりですか?」
「うん、これだけやで」
「じゃあせっかくですし、ちょっと遊んでいきましょうよっ」
「え、ほんま? 珍しいやん」
「なんだか今、むしょーにとうかちゃんと遊びたいんです」
「おう、えーでー。うちはいつでも付きおーたる」
「ふふ、心強いですね。じゃあ、何しましょうか?」
「そやなぁ……」
「うーん……」
「………………よし、寝よか」
「遊びじゃないですよっ!?」

けれど、多分それは聞いた所で理解できないのだろう。
そう考えたとうかは、とりあえず考えるのをやめて。

「はい、はじめー。………………すぅ」
「えぇっ!? ほ、ほんとに寝た!?」

自分にもそんな幸せの青い鳥が来るのを、寝て待つことにした。

「すー…………すー…………あれ? 待つのはカホーやったっけ……?」
「寝言!?」

だから、まずは。
おやすみなさい。
(了)
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